すき焼き、しゃぶしゃぶ、ステーキ……、牛の料理はご馳走だ。おいしいだけの食材はたくさんある。でも牛肉は、みんなでテーブルを囲んで食べる料理の食材として、重宝されてきた。「牛には、食事の時間を“楽しく”演出する力がある。牛も人に食されて人に喜んでもらえれば、それが宿命というのかな。牛養いは、育てる愛情と食す喜びというギャップを感じながら、自分の感情と向き合うことも仕事のひとつ。それは、牛への礼儀でもあるのよ」。日々、自分に問いかけながら仕事をする鎌田さん。
牛舎では、人は止まることなく歩き回り、牛はいつものんびり過ごす。
生き物を扱うのだから、お金儲けでやるのではなく、使命感を持って牛を育てないとうまくはいかない。妥協は許されない世界だ。でも、「周りには夢のある話をする人しかいなかった。だから、牛養いの世界に入った」と、鎌田さんは話す。
職人技ともいえる綺麗なサシをつくる和牛は、海外ではフォアグラのような珍味として例えられることもあるのだとか。
「これからは牛よりも、人を育てていかないかん」。鎌田さんの子ども達は、牛舎で遊びながら、父親の背中を見ながら、教わることなく手伝いをする。次男のしょうご君は、牛の目利きもしてしまうほどの “牛博士”。しょうご君の一言で、牛を売らなかったこともあるのだとか。「環境におれば見えてくる。だから、どこにでも連れて行く」という、鎌田さん流の英才教育の賜物だ。
餌やりの場所に合わせて移動するベビーベッドで育ったという子ども達。小学校に入っても、学校がおわると牛舎へ直行。長男のだいき君はマシンが大好き。入学式のお祝いに買ってもらったショベルカーからジャンプ!
近所のキュウリ農家さんが飼っている三毛猫のジローと三男のゆうた君。